
このページでは、梅毒の原因・症状・治療方法といった基本情報について詳しく解説しています。
国内での感染者数が急増しているので、「もしかして…」と思った時には参考にしてみてください。
性病とは
性病の治療について
梅毒とは?
梅毒とは、「梅毒トレポネーマ」という細菌の感染によって引き起こされる性感染症の1つです。
日本では1512年に感染が広まったとの記録があり、梅毒という病名は症状の1つである発疹が「楊梅(やまもも)」に似ていることに由来します。
梅毒の概要 | |
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原因 | 梅毒トレポネーマ |
感染経路 | 病変部位と粘膜の直接接触(主に性行為やそれに類似する行為) |
感染症法による分類 | 5類感染症(全数把握対象) |
感染力の強さで知られ、梅毒に感染してから1年未満の人との性行為があった場合の感染率は30%にもなります。
また他の性病とは異なり、症状が出たり、消えたりするので長期的に放置してしまう危険があるので注意が必要です。
梅毒感染者は2021年に急増
梅毒の感染者数は1950年ごろまで年間20万人以上もいたものの、治療薬の普及にともない、1990年代に入ってからは年間1,000人を下回る年が続いてきました。
しかし2011年に入ってから再び増加に転じはじめ、2021年には感染者数が急増しています。
梅毒感染者数の推移 | |
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2011年 | 827人 |
2021年 | 7,978人 |
2022年 | 10,000人以上(10月下旬時点) |
わずか10年ほどで梅毒感染者数は10倍以上にもなっており、今後さらなる感染拡大が危惧されています。
感染者は20代~50代の男性、20代女性に多い
梅毒の年代別報告数によれば、男性は20代〜50代と幅広い世代に感染が認められ、女性は20代に突出して増えています。
特に男性では2009年以降「同性間」での感染が50%を占めていたものの、2015年以降は「異性間」での感染が急増しました。
急増する原因ははっきりしていないものの、次のようなことが考えられています。
- SNS
- マッチングアプリ
- 外国人観光客の増加
出会いのきっかけが増えたことや、不特定多数との性行為も増加の一因と見られています。
梅毒は治る病気
梅毒はすでに特効薬が見つかっているため、早期に治療すれば治る病気です。
治療法のなかった時代では、感染したらほぼ死に至る不治の病とされていましたが、現代の進歩した医学ではその心配はありません。
ただし、検査や治療が遅れてしまうと、日常生活がままならないほどの症状を引き起こすことがあります。
悪化やこれ以上の蔓延を防ぐためにも、早期発見・早期治療が大切なことは覚えておきましょう。
梅毒の感染経路
梅毒は、感染部位と粘膜や皮膚が直接接触する行為によって感染します。
梅毒トレポネーマが含まれるもの | 精液、膣分泌液、血液、浸出液(傷の表面から滲み出てくる透明の液体) など |
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感染する入り口 | 粘膜(性器や口など)、皮膚、傷口 など |
主に粘膜が接触する性行為が感染経路となりますが、皮膚や傷口などからも菌が体内に侵入することがあるので注意が必要です。
では、それぞれの感染経路について詳しく見ていきましょう。
性行為で感染する
ここでの性行為とは、以下のように粘膜が触れ合う行為全般を指します。
- ノーマルセックス
- オーラルセックス
- アナルセックス
性器から口、またその逆も考えられ、感染部位の粘膜が触れてしまう行為であれば肛門にも感染します。
また、キスによってうつる可能性もゼロではありません。
口内の粘膜に梅毒が感染している人とキスをすれば、唾液を介して菌に触れてしまうおそれがあります。
母子感染する
梅毒は、お母さんから赤ちゃんへと母子感染します。
「胎内感染」とも呼ばれ、血液を通して胎盤から胎児の身体へと侵入することで先天性梅毒を引き起こすことがあります。
きちんと治療すれば胎内感染のリスクは下がるものの、感染リスクはゼロにはなりません。
そのため妊娠をする前に、梅毒の検査・治療を済ませることが大切です。
傷口から感染する
皮膚や粘膜の小さな傷は菌の入り口になってしまうため、傷口が感染部位に触れてしまうと感染のリスクがあります。
傷口感染の例
ささくれや指に切り傷がある → 感染した性器に触れる
梅毒の潜伏期間
梅毒に感染してから症状が出るまでの潜伏期間は、おおむね3週間ほどです。
ただしこれはあくまでも目安となり、個人差が大きいです。
また東京都の報告によれば、無症状のまま進行する患者数の割合は20〜40%にもなるとされ、必ずしも感染によって症状が出るとは限りません。
感染しても必ず症状が出るわけではないため、感染リスクのある行為に心当たりがある場合は、早めに検査を受けるのが得策です。
梅毒の症状
梅毒は「偽装の達人(The great imitator)」という異名をとるほどで、進行するごとにさまざまな症状が確認されています。
しかも症状は出たり消えたりを繰り返すため、梅毒への感染を疑う機会を見失う可能性もあります。
また、梅毒は1年を境に「早期梅毒」と「後期梅毒」に分けられ、感染して間もない「早期梅毒」では感染力が特に強いです。
時間経過によって次々と症状が変わってしまうので、ここからは症状についてより詳しく見ていきましょう。
顕症梅毒:症状が出ている状態
「顕症」とは、症状が現れている状態を指します。
つまり顕症梅毒とは、約3週間の潜伏期間を経た後に症状が出ている状態です。
症状は「3」の付くタイミングで変化する傾向にあるので、時期と併せて症状を確認していきましょう。
第1期:感染後約3週間~3ヵ月
第1期は痛みやかゆみといった特徴的な症状はなく、感染部位に「初期硬結」と呼ばれる軟骨くらいの硬さの小さなしこりが現れます。
しこりが出る部位 | |
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男性 | 冠状溝(カリ)、包皮、亀頭 |
女性 | 大小陰唇、子宮頚部 |
男女 | 口唇、手指、肛門など |
しこりはやがて「硬性下疳(こうせいげかん)」と呼ばれる潰瘍となり、中心部がただれてぐじゅぐじゅした状態へと変化します。
2〜3週間もすれば症状は消えるものの治ったわけではなく、次の症状にうつっていきます。
第2期:感染後約3ヵ月~3年
第2期は、原因菌である梅毒トレポネーマが血液に侵入し、全身に広がることでリンパ節に腫れがみられるようになります。
発熱や身体のだるさ、関節痛といった風邪に似た症状に加え、梅毒性バラ疹、梅毒性脱毛、扁平コンジローマなどの症状が見られることもあります。
症状の出やすい部位 | |
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男女 | 手のひら、足裏、顔、四肢、口の中、肛門周囲、頭皮 など |
第2期の症状も時間の経過とともに自然と消えていきますが、治ったわけではありません。
静かに身体の中で感染を広げていき、第3期へと移行していきます。
第3期以降:感染後約3年以上
第3期以降、梅毒の感染は皮膚だけでなく、筋肉や骨、臓器にまで及びます。
- 皮膚や筋肉、骨に「ゴム腫」と呼ばれるしこり
- 手足の麻痺
- 目が見えなくなる
- 心血管系の病気(大動脈炎や大動脈瘤など)
など
全身が梅毒に侵されている状態となり、そのまま放置してしまうと生命に関わる状態になります。
現在では第2期までに治療されることが多く、第3期に入ってしまうことはほとんどありません。
しかし、梅毒を放置すると非常に危険な状態に陥るため、早期発見・早期治療が重要です。
無症候梅毒:症状がない状態
無症候梅毒とは、梅毒に感染しているにも関わらず症状が出ていない状態のことです。
無症状でも検査で陽性が確認されている状態のほか、長年にわたって症状に気づかず過ごすケースもあります。
初感染後や第1期と第2期の間、第2期と第3期の間に見られ、「潜伏梅毒」とも呼ばれています。
無症候梅毒は感染してからの時間経過によって、次のように分けられています。
早期潜伏期 | 感染から1年以内 |
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晩期潜伏期 | 感染から1年以上 |
神経梅毒:脳や脊髄に感染が拡がっている状態
神経梅毒とは、中枢神経に梅毒トレポネーマが感染している状態です。
どの病期でも起こり、髄膜血管型と実質型に分けられ、以下のような症状が引き起こされます。
- 髄膜炎
- 視力障害
- 聴力障害
- 脳梗塞
など
- 脊髄癆(せきずいろう)
歩行障害、感覚障害、排尿障害など - 進行麻痺
性格の変化、記憶障害、認知機能低下など
など
また「無症候性」というタイプもあり、その場合は感染してはいるものの症状は出ません。
無症候性の神経梅毒は、感染から1年未満の早期梅毒患者の約40%にみられます。
先天梅毒:生まれたときから感染している状態
母親の梅毒感染によって、胎盤を通して胎児に感染するのが先天梅毒です。
- 低出生体重児
- 肝脾腫(かんひしゅ)
- 紫斑
など
出生時に感染していてもしばらく症状が出ず、学童期に症状が出ることもあります。
- 実質性角膜炎
- 内耳性難聴
- ハッチンソン歯
- 口周囲亀裂
など
母子感染は早産や流産、死産などの原因にもなり、無事出産に至っても、生まれてきた子供に後遺症が残ることもあります。
梅毒の検査
梅毒の感染を調べるには、血液検査(抗体検査)を行います。
梅毒の血液検査 | |
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RPR法 | 「現在」の梅毒の活動性を調べる検査 |
TP法 | 「過去」に梅毒にかかったことがあるか調べる検査 |
2つの検査結果を踏まえ、必要に応じて患部の状態と併せて感染を判断していきます。
また、梅毒は「感染機会から1ヶ月以上」が経っていれば検査可能となり、これ以前に検査しても感染しているかの正しい判断はできません。
検査キットを使って個人で検査も可能なことから、検査可能な時期は覚えておきましょう。
なお、梅毒に感染していると、HIVへの感染リスクが高まります。
梅毒を疑う際は、同時にHIVの検査も行うのが望ましいです。
性病検査キットについて
性病治療について
梅毒の改善・治療方法
梅毒の改善・治療方法は、ペニシリン系の抗生物質(抗菌薬)の服用が第一選択です。
服用する期間は梅毒の進行状況によっても異なるため、医師の診察が必要です。
抗生物質は一般的な内服薬にくわえ、点滴や筋肉注射などもあり、神経梅毒や先天梅毒など症状に併せた適切な剤形が処方されます。
なお、治療開始から数時間で、39℃以上の発熱や全身の倦怠感、悪寒、場合によっては発疹の増悪などがみられることがあります。
こうした症状は薬による副作用ではなく、梅毒トレポネーマが薬によって破壊されることで起こる「ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー現象」と呼ばれるものです。
ただし、妊婦については早産や流産の原因となるので、様子を見ながら慎重に治療を行う必要があります。
梅毒の予防について
完治の判断方法
必要な治療をすべて終えたら、抗体がどのくらいあるか定期的に検査を受けます。
治療終了後6ヵ月経った時点での血液検査で、治癒判定を受けたら「完治した」と判断できます。
治癒判定の目安は、次の2つを満たすことです。
- 症状が消失
- カルジオリピンの抗体検査で定量値が8倍以下
(自動化法の場合は定量値16R.U.以下)
なお、6ヶ月が経過しても数値の減少が見られない場合、「治療が不十分」あるいは「再感染」の2つが考えられるので再治療が必要です。
梅毒は再感染する
梅毒は一度感染すると抗体が生成されます。
ただしこれは免疫ではないため、感染する機会があれば何度でもかかる病気です。
完治後は再感染を防ぐための予防を怠らないようにし、不用意な性行為は控えなければなりません。
また、パートナーも完治するまでは性行為やそれに類似する行為は控えましょう。
どちらかが感染したままであれば、お互いに菌を移し合うピンポン感染の原因にもなります。
完治までにも時間がかかる厄介な性病のため、お互い十分に注意してください。
梅毒の予防方法
梅毒は正しい予防方法を実践していけば、感染するリスクを下げられます。
以下の方法を実践し、お互いにセーフセックスを心がけましょう。
コンドームを着用する
コンドームは避妊具としてだけでなく、梅毒を含むさまざまな性感染症を予防する役割もあります。
挿入時はもちろん、梅毒は口からも感染することから、オーラルセックス時にも装着するのが理想的です。
ただ、100%梅毒の感染を防げるわけではないので、お互いに定期的な検査を受けたり、行為前に性器や皮膚にしこりやただれといった症状がないか確認したりするようにしてください。
不特定多数との性行為をやめる
梅毒が急増している背景には、不特定多数との性行為が原因の1つという意見もあります。
「パートナーの数=感染リスク」となり、感染経路がわからなくなってしまうと再感染するリスクも十分に考えられるでしょう。
自ら梅毒に感染するリスクを高めないためにも、性行為は特定の相手とだけ行うよう心がけてください。
梅毒の予防方法
妊娠中の感染による胎児への影響
妊娠時に梅毒に感染してしまうと、胎児への影響として次のようなリスクが考えられます。
妊娠中 | ・流産 ・早産 ・死産 |
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出産後 | ・低体重 ・先天梅毒(神経や骨の異常など) |
生まれて間もない頃は無症状が続くこともありますが、数年後に影響が出ることもあるので非常に危険です。
妊婦健診などで早期発見・早期治療に繋げるのはもちろん、妊活に入る前にパートナーといっしょに梅毒などの性病検査を受けておくようにしましょう。
梅毒とエイズ(HIV)の関係
梅毒とHIVの重複感染は10〜20%の間で報告されているため、梅毒に感染した10人に1〜2人はHIVも感染している可能性があります。
またHIVに感染している場合、健常者にくらべて神経梅毒のリスクが高まるほか、第1期の症状が第2期まで続いたり、第2期の症状が重症化したりするリスクなどがあります。
こうしたことから梅毒やHIVへの感染が疑われるようであれば、どちらも検査するのが望ましいです。
梅毒かも?と思ったら早急に検査を
梅毒は近年感染者が急増し、感染リスクも高まっている性感染症です。
人によっては症状が出ないこともありますが、放置すると症状は悪化し治療期間も長くなってしまいます。
「自分は大丈夫」と思わず定期的に検査を受け、早期発見・早期治療に繋げましょう。
よくあるご質問
-
- Q梅毒の治療中に性行為しても良いですか?
- A梅毒の治療中であっても、性行為やそれに類似する行為は控えてください。
まだ感染力が残っている可能性があり、パートナーにうつしてしまったり、感染を蔓延させる原因になってしまいます。
治療後の治癒検査(再検査)によって治癒と判断されるまでは、感染リスクのある行為は避けるようにしましょう。
- Q
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- Q梅毒になったら献血できないって本当?
- A本当です。
輸血される患者が、梅毒感染者の血小板製剤や新鮮血を使用することで感染するおそれがあるので、梅毒の感染経験が一度でもあれば、たとえ完治していたとしても献血はできません。
- Q
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- Q梅毒はお風呂で移りますか?
- Aお風呂で梅毒に感染するリスクは、限りなくゼロに近いです。
傷などのない健康な皮膚状態であれば、梅毒は体内に侵入できません。
可能性があるとすれば、肛門に病変がある方が座ったバスチェアを介して感染するリスクはありますが、洗い流せば感染の可能性を下げることが可能です。
- Q
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- Q「梅毒になると鼻が落ちる」って本当?
- Aできものができる場所によっては、鼻の形が崩れることは本当です。
感染から治療をせず数年から数十年が経過すると、第3期の症状としてゴム腫が現れます。
鼻骨周辺に形成されてしまうと鼻を欠損することがあり、治療薬のなかった江戸時代には、「梅毒にかかると鼻が落ちる」と言われていました。
現在は第3期に進むことはほぼないため心配の必要はありませんが、早期発見・早期治療を心がけるようにしましょう。
- Q
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