アドシルカとザルティアは同じタダラフィルを成分とする「PDE5阻害薬」に分類されます。
アドシルカは肺高血圧症治療薬で肺動脈圧や肺血管抵抗などを改善する医薬品です。
ザルティアは前立腺肥大症に伴う排尿障害改善を目的に利用される医薬品です。
このページではアドシルカ錠やザルティア錠の効果、副作用、併用禁忌、併用注意、服用方法といった基本情報を解説します。
アドシルカ、ザルティア共通の成分であるタダラフィルについての詳細は以下のページをご覧ください。
アドシルカ・ザルティアの基本情報
アドシルカ(AdcircaⓇ)及びザルティア(ZalutiaⓇ)は、米国イーライリリー・アンド・カンパニー社の登録商標で、日本新薬株式会社が製造販売を行っています。
アドシルカ・ザルティアについての基本情報は以下の通りです。
アドシルカ・ザルティアの基本情報
アドシルカ | ザルティア | |
錠形 | 赤かっ色の楕円形(たまご型) | 白色の楕円形(たまご型) |
一般名 | 和名:タダラフィル 洋名:Tadalafil |
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有効成分 | タダラフィル | |
効能または効果 | 肺動脈性肺高血圧症の治療 | 前立腺肥大症に伴う排尿障害改善 |
副作用 | 頭痛、めまい、潮紅、消化不良、腹痛、低血圧、色視症など 過量投与で有害事象の頻度と重症度は上昇 |
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併用禁忌 | 硝酸剤又は一酸化窒素(NO)供与剤、可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激剤、チトクロームP450 3A4(CYP3A4)を強く阻害する薬剤、CYP3A4を強く誘導する薬剤、重度の腎障害、重度の肝障害患者など | |
併用注意 | α遮断剤、降圧剤、CYP3A4を阻害する薬剤、CYP3A4を誘導する薬剤、ボセンタン、カルペリチド、ビタミンK拮抗薬、ベルイシグアトなど | |
用法・用量 | 1日1回タダラフィルとして40mgを経口投与 ※軽度又は中等度の腎障害のある患者には、1日1回20mgを投与 |
1日1回タダラフィルとして5mgを経口投与 ※中等度の腎障害のある患者は1日1回2.5mgから投与を開始 |
薬価 | 980.5円/錠(日本新薬) | 2.5mg 60.8円/錠(日本新薬) 5mg 112.3円/錠(日本新薬) |
製造販売元 | 日本新薬株式会社 |
また、後発医薬品として、日本ジェネリック、トーアエイヨー、キョーリンリメディオ、沢井製薬、シオノケミカル、大興製薬、辰巳化学、江州製薬、東和薬品、富士化学工業などから、国産ジェネリックが発売されています。
アドシルカの効果・効能
アドシルカの効能・効果は肺への血液循環改善による肺動脈圧や肺血管抵抗の低下です。この効果により肺動脈性肺高血圧症を治療します。
アドシルカを服用すると肺動脈の平滑筋に多く分布しているPDE5を阻害します。
これにより平滑筋細胞内のcGMPの濃度が上昇し、肺への血液循環が良くなることで肺の動脈圧や血管抵抗を改善します。
↓
平滑筋の細胞内でcGMPの濃度が上昇
↓
肺への血液循環が良くなり、肺動脈圧や肺血管抵抗などを改善
↓
息切れや呼吸困難、運動能力の低下などの症状が緩和
肺動脈性肺高血圧症は難病指定されており、WHO機能分類クラスⅡ〜Ⅲ(中等度からやや重い)に対してアドシルカの成分タダラフィルはもっとも推奨度の高い治療薬とされています。
またアドシルカのみで効果が不十分な場合、他の系統(ERAやPGI2誘導体)との併用も可能です。
タダラフィルの肺動脈性肺高血圧に対する臨床試験
肺動脈性肺高血圧症の患者405例(日本人26例を含む)を対象に、タダラフィル2.5mg、10mg、20mg、40mgまたはプラセボのいずれかを、18週(投与期間16週間)にわたって1日1回投与した臨床試験では以下のような結果が得られています。
平均肺動脈圧(mmHg):-4.27
平均肺血管抵抗係数(dyne・sec/cm5/m2):-117.05
心係数(L/min/m2):0.36
平均動脈圧(mmHg):-2.00
40mgを投与したグループは6分間の歩行距離が平均41.14m増え、平均肺動脈圧が4.27mmHg低下するなど、有意に改善しました。
QOLの評価においても、40mgはプラセボ群にくらべて統計学的に有意な改善が認められています。
日本新薬のインタビューフォームによると、効果に関連する使用上の注意として、「肺高血圧症に関するWHO 機能分類クラスIにおける有効性・安全性は確立されていない」という記述があります。
アドシルカの服用方法
肺動脈性肺高血圧症にアドシルカを用いる際の服用方法は、以下のとおりです。
ただし、腎障害または肝障害が認められている方は、以下の服用方法に従ってください。
⇒1日1回20mg
軽度または中等度の肝障害
⇒1日1回20mg(服用するリスクとベネフィットを考慮)
軽度または中等度の肝障害に対してのタダラフィルの投与試験は限られています。
そのため治療によるリスクよりも、得られる効果(ベネフィット)が上回ると判断できる場合にのみ服用となります。
ザルティアの効果・効能
ザルティアの効能・効果は前立腺肥大症に伴う排尿障害の改善です。
前立腺は膀胱のほぼ真下に位置し、尿道を取り囲むように存在しているため、肥大すると尿道や血管の圧迫により排尿障害を起こします。
ザルティアの作用機序ははっきりしていませんが、前立腺や膀胱平滑筋、下部尿路血管の血流を改善することで、弱った機能が修復されることにより排尿障害が改善されるといった説が一般的です。
また、固くなった膀胱壁も血流の改善によってやわらかくなるため、尿を貯めやすくなる効果も期待できます。
なお、ザルティアとして服用を続けた際、テストステロンの数値が上昇したという報告もあります。
ただし、ザルティアによる治療は原因療法ではなく、対症療法であり、投与で期待する効果が得られない場合は手術をはじめ、他の治療法選択を考慮する必要があります。
タダラフィルの前立腺肥大症に対する臨床試験
日本人の前立腺肥大症に伴う排尿障害患者422例を対象に、タダラフィルを2.5mgまたは5mgを1日1回12週間投与した臨床試験では以下の結果が得られています。
2.5mg群:-4.5
5mg群:-4.9
プラセボ群と比較し、変化量は5mg群が2.5mg群より大きく、用量に比例して改善傾向が高まることが確認されています。
なお、上記の臨床結果はIPSSのベースラインからの変化量となっています。
数字が大きい方が症状が重い状態。
ザルティアの服用方法
前立腺肥大症に伴う排尿障害にザルティアを用いる際の服用方法は、以下のとおりです。
なお、中等度の腎障害が認められている方や、CYP3A4阻害薬を服用中の方は、血中内でタダラフィルの濃度が上昇するおそれがあります。
2.5mgから服用を開始し、適宜5mgへの増量となるので、医師の指示に従った服用を心がけてください。
アドシルカ、ザルティアの有効成分タダラフィルについて
アドシルカ、ザルティアの有効成分タダラフィルとはホスホジエステラーゼ(PDE)5阻害薬です。
cGMP(サイクリックGMP)分解酵素の「ホスホジエステラーゼ(PDE)5」を阻害して、cGMP濃度を上昇させる作用により血管を弛緩し、血流を通常よりも増幅させます。
タダラフィルは勃起不全治療薬(ED治療薬)のシアリスと共通の成分です。
その他、タダラフィルは以下のように高地肺水腫でも利用されることがあります。
高地肺水腫(HAPE)への効果
高山病における死亡の大部分を占めるHAPEにもタダラフィル(およびシルデナフィル)が利用されることがあります。
高地肺水腫(HAPE)での服用方法
高地肺水腫(HAPE)の治療および予防でタダラフィルを服用する場合は以下の通り服用します。
アドシルカの副作用
アドシルカの副作用は重大な副作用として、過敏症(頻度不明)発疹、 蕁麻疹、 顔面浮腫、 剥脱性皮膚炎、Stevens-Johnson症候群等があらわれるとされます。
その他の副作用は以下の通りです。
・頭痛、潮紅、悪心、消化不良、筋痛、背部痛
1~5%未満
・火照り、低血圧、霧視、下痢、胃食道逆流性疾患、嘔吐、上腹部痛、腹部不快感、胃炎、AST増加、四肢痛、筋痙縮、関節痛、筋骨格硬直、浮動性めまい、睡眠障害、月経過多、鼻閉、鼻出血、呼吸困難、発疹、末梢性浮腫、疲労、挫傷、疼痛
1%未満
・失神、眼充血、眼痛、結膜出血、視力低下、眼の異常感、鼓腸、関節炎、四肢不快感、うつ病、下肢静止不能症候群、感覚鈍麻、錯感覚、片頭痛、そう痒症、顔面浮腫、貪食細胞性組織球症
頻度不明
・動悸、胸痛、心不全、心筋梗塞、 心突然死、頻脈、高血圧、レイノー現象、血腫、回転性めまい、眼乾燥、非動脈炎性前部虚血性視神経症、網膜静脈閉塞、視野欠損、視覚障害、中心性漿液性脈絡網膜症、腹部膨満、腹痛、胃不快感、口内乾燥、脳卒中、持続勃起症、勃起延長、副鼻腔うっ血、多汗症、貧血、INR増加、体重増加、食欲不振、腫脹、浮腫
ザルティアの副作用
ザルティアとアドシルカは同成分ですが、投与用量の違いもあり、ザルティアの副作用は添付文書では以下のように紹介されています。
・頭痛、消化不良
1%未満
・動悸、火照り、潮紅、胃食道逆流性疾患、下痢、胃炎、腎クレアチニン・クリアランス減少、筋肉痛、背部痛、浮動性めまい、勃起増強、自発陰茎勃起、CK上昇
頻度不明
・心筋梗塞、胸痛、心突然死、失神、低血圧、眼痛、霧視、結膜充血、網膜動脈閉塞、網膜静脈閉塞、眼瞼腫脹、視野欠損、非動脈炎性前部虚血性視神経症、突発性難聴、中心性漿液性脈絡網膜症、腹痛、四肢痛、片頭痛、脳卒中、呼吸困難、鼻出血、多汗症
副作用が出たときの対処法
アドシルカ・ザルティアを服用できない人
・硝酸剤又は一酸化窒素(NO)供与剤を投与中の人
・可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激剤(リオシグアト)を投与中の人
・重度の肝障害がある人
【その他の禁忌(薬により異なる)】 ・不安定狭心症のある人
・コントロール不良の不整脈、低血圧(血圧<90/50mmHg)又はコントロール不良の高血圧(安静時血圧>170/100mmHg)のある人
・心筋梗塞の既往歴が最近3ヵ月以内にある人
・脳梗塞・脳出血の既往歴が最近6ヵ月以内にある人
・重度の腎障害がある人
・CYP3A4を強く阻害または誘導する薬剤を投与中の人
・心血管系障害のある人
アドシルカ・ザルティアと同成分であるED治療薬に関する服用の禁忌の詳細は以下のページでご確認ください。
アドシルカ・ザルティアの併用禁忌
併用禁忌は、他の薬との相互作用(飲み合わせ)により効果が増強あるいは減弱する薬剤を指します。
治療効果が安定しないほか、成分の代謝が妨げられることで副作用が出やすくなるおそれもあるのでご注意ください。
・硝酸剤又は一酸化窒素(NO)供与剤を投与中の人
・可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激剤(リオシグアト)を投与中の人
・sGC刺激剤(リオシグアト)
【アドシルカのみ併用禁忌(ザルティアは併用注意)】 ・CYP3A4を強く阻害する薬剤(イトラコナゾール、リトナビル含有製剤、アタザナビルなど)
・CYP3A4を強く誘導する薬剤(リファンピシン、フェニトイン、カルバマゼピンなど)
タダラフィルの併用禁忌には、狭心症、不整脈、肺動脈性肺高血圧症の治療に用いる血管や血圧に作用する薬が該当します。
またアドシルカについては、抗HIV薬や抗菌薬、抗てんかん薬なども併用禁忌のリストにあげられます。
なお、併用禁忌は普段口にするものにも及びます。
タダラフィルの代謝を妨げるものとして、グレープフルーツに含まれる「フラノクマリン類」が挙げられます。
代謝を妨げる影響は数十時間〜数日持続したとの報告もあるので、タダラフィル服用中はジュースや果肉、果皮を使用したジャムなどは避けるようにしてください。
なお、高山病の場合、利尿薬の併用は効果がないだけでなく、高山病の多くの患者の体液量が減少傾向にあるため禁忌です。
アドシルカ・ザルティアと同成分であるED治療薬に関する併用禁忌薬の詳細は以下のページでご確認ください。
アドシルカ・ザルティアの併用注意
併用注意とは、医師の判断による慎重な服用が求められる薬を指します。
自己判断で併用すると、降圧作用が増強されたり、薬の血中濃度が高くなるおそれがあります。
・α遮断剤
・降圧剤
・カルペリチド
・ベルイシグアト
【医薬品別の併用注意】 ・HIVプロテアーゼ阻害剤(ザルティアのみ)
・ビタミンK拮抗薬(アドシルカのみ)
主に代謝に関わる薬や、血圧を下げる薬が併用注意にあげられます。
種類も非常に多いことから、常用している薬だけでなく、タダラフィル服用中に新たな薬が追加になった場合にも医師にご相談ください。
アドシルカ・ザルティアと同成分であるED治療薬に関する併用注意薬の詳細は以下のページでご確認ください。
アドシルカ・ザルティアのまとめ
最後にアドシルカ・ザルティアについて、このページの内容をまとめてお伝えします。
・ザルティアは前立腺肥大症に伴う排尿障害改善薬
・アドシルカ・ザルティアの成分は同じタダラフィル
・タダラフィルはED治療薬シアリスの成分としても知られる
・主な副作用は頭痛をはじめ、両薬とも共通するが、発生頻度に違いがある
・重篤な副作用が出た場合は速やかに医療機関を受診する
・アドシルカは成人1日1回40mgを連日投与
・ザルティアは成人1日1回5mgを連日投与
・タダラフィルにはジェネリック医薬品も販売されている
アドシルカ・ザルティアについてのよくある質問
アドシルカ・ザルティアについてのよくある質問を以下にまとめてお伝えします。
アドシルカ:肺動脈性肺高血圧症治療薬
ザルティア:前立腺肥大症に伴う排尿障害改善薬
シアリス:ED治療薬
このため、服用方法・用量にも違いがあります。