
このページでは、トリコモナス(膣トリコモナス症)の基本情報をお伝えしています。
男性・女性別の症状や原因、感染経路、治療法にも触れているので、パートナーと一緒に参考にしてください。
トリコモナスの基本情報
男性の症状 | 無症状、排尿時の痛み、分泌液 | 確認 |
---|---|---|
女性の症状 | 刺激感、かゆみ、泡状のおりもの、悪臭のあるおりものなど | 確認 |
原因 | トリコモナス原虫の寄生 | 確認 |
感染経路 | 主に性行為 | 確認 |
潜伏期間 | 1~3週間、平均10日前後 | 確認 |
検査 | 女性はおりもの、男性は尿や分泌物を調べる | 確認 |
治療 | 内服薬、膣剤、膣洗浄など | 確認 |
再検査 |
男性: 服用後2週間以上が経過 女性: 服用後2週間以上が経過した次回生理後 |
確認 |
自然に治る? | トリコモナスは自然治癒しない | 確認 |
予防法 | コンドームを使用する、不特定多数との性行為を控えるなど | 確認 |
※当院ではトリコモナスの治療薬を処方しておりません
トリコモナスとは
トリコモナスとは、古くから知られる性病の1つで、正式には「膣トリコモナス症」と呼ばれています。
トリコモナス原虫という0.01mmほどの寄生虫の感染によって、男女の性器にさまざまな症状を起こします。
性行為の経験がない人でも、湯船や便器などから感染することも。
トリコモナスへの感染は、衛生環境の向上から日本では減っている傾向にあるものの、世界的には感染者数がもっとも多い性感染症です。
トリコモナスの症状【男性】

男性はトリコモナスが尿道に感染するため、尿道炎によって次のような症状が現れます。
- 排尿時の軽い痛み
- 尿道口から分泌液(無色)が出る
- 尿道へのかゆみ・熱感・違和感
など
ただしこうした症状が出るのはまれであり、男性の約80%は無症状とされています。
感染していても検査で陽性判定が出ない場合もあるため、パートナーが感染したら治療するのが望ましいです。
なお、寄生しているトリコモナス原虫は、排尿によって自然に洗い流されることがあります。
寄生している数が減りはするものの、ごくわずかでも感染力が残っていれば再発・再燃することもあるので注意が必要です。
トリコモナスの症状とおりもの【女性】

女性は膣周辺にトリコモナスが感染し、トリコモナス膣炎を引き起こします。
膣や外陰部
⇨ 刺激感、強いかゆみ、発赤
おりもの
⇨ 泡状・強い悪臭
おおむね20〜50%の女性は無症状で、そのうち3分の1は6ヶ月以内に症状を自覚することが多いです。
男性にくらべるとトリコモナスの感染を自覚しやすいものの、気づくのが遅れて悪化すると卵管まで感染が移行してしまうので注意が必要です。
トリコモナスと症状が似ている病気
トリコモナスのように尿道炎や膣炎、子宮頸管炎などを起こす性感染症は、他にもいくつかあります。
人によっては同時に感染してしまうこともあり、その症状も似ていることから検査によって病原体を特定するまでは区別がつきません。
また、いずれの性感染症も自覚症状が少ないことを踏まえると、トリコモナス以外も検査しておくのが安心です。
トリコモナスの原因
トリコモナスの原因は、トリコモナス原虫(膣トリコモナス)の寄生によるものです。
膣や尿道にトリコモナス原虫が侵入することで、炎症を引き起こします。
女性の感染率が高く、膣に感染してトリコモナス膣炎につながる場合があります。
トリコモナスの感染経路|心当たりがないことも
トリコモナスは以下のような感染経路で感染する場合があります。
トリコモナスは、性行為以外にも日常生活で感染する場合があります。
さらに、症状を発症するまで潜伏期間があるため、「心当たりがないのに感染していた」と感じるケースもあるようです。
無防備な性行為
無防備な性行為は、自らトリコモナスに感染するリスクを高めてしまいます。
- コンドームを使用しない
- 不特定対数との性行為
コンドームを使用しない性行為は、トリコモナスに限らず、さまざまな性病への感染リスクが考えられます。
感染に無自覚であれば何度でも感染し、お互いに移し合うピンポン感染の原因にもなりかねません。
また、不特定多数の人と性行為をしてしまうと、関係の数だけ感染リスクは増加します。
誰から感染したのかわからないと感染の拡大・蔓延の原因にもなるので、日頃からセーフセックスを心がけるようにしてください。
お風呂・トイレ・タオルの共有
トリコモナスは感染経路が幅広く、日常生活で感染するケースもあります。
- 浴槽
- 便座
- タオルや下着の共有
など
感染している人の性器が触れる可能性のあるものは感染経路になってしまうため、性行為の経験がない人や、幼児でも感染するおそれもあります。
ただし、いずれのケースも不衛生にしていることが原因です。
清潔な状態さえ保てればトリコモナスへの感染は起こりにくいとされているので、使用後は掃除をしたり、タオルや下着などの共有は控えるようにしてください。
自己感染
トリコモナスは、性器に隣接する部位にトリコモナス原虫が残っていると自己感染を起こすことがあります。
男性
⇨ 前立腺、精嚢
女性
⇨ 子宮頸管、下部尿路(膀胱から尿道まで)、卵管
一度治療しても、原虫が性器以外に侵入・生息し残ってしまうことがあります。
ふたたび尿道や膣に戻って感染状態になる可能性があるので、必ずしも性行為だけが感染経路ではないことは覚えておきましょう。
トリコモナスの潜伏期間
トリコモナスの潜伏期間は、個人差があるものの1〜3週間で、男女ともに平均すると10日前後といわれています。
潜伏期間とは、病原体に感染してから最初の症状が現れるまでの期間です。
ただこれはあくまでも目安で、症状が出ない無症候感染のケースもあるため、「症状がない=感染していない」ということにはなりません。
潜伏期間中でも感染力はあるので、感染した可能性がある場合は性行為やそれに類似する行為は控えるようにしてください。
トリコモナスの検査方法
トリコモナスの検査は、検体を採取して行います。
検体 |
男性:尿(初尿)または分泌液 女性:おりものまたは尿 |
---|---|
検査方法 | 鏡検法:検体を顕微鏡で調べる |
培養法:検体を培養して調べる | |
PCR法:トリコモナス原虫の遺伝子を増幅させて調べる | |
結果が出るまでの期間 | 数分〜約4日 |
検査のタイミングとしては、「感染機会から24時間以上」が経過していれば検査可能です。
ただ、男性の鏡検法については、トリコモナス原虫が少ないと感染していても見落とすことがあるため不向きとされています。
トリコモナスの治療と治療期間
トリコモナスの治療は、ニトロイミダゾール系に分類される抗原虫薬の投与になります。
薬の剤形は経口薬と膣剤があります。
- フラジール内服薬、膣剤
- チニダゾール内服薬、膣錠 など
トリコモナス原虫には、「フラジール(メトロニダゾール)」が有効です。
体質によってフラジールの有効成分メトロニダゾールにアレルギーがある方は、代わりに同じ抗原虫薬の「チニダゾール」の内服薬または膣錠で治療します。
女性の場合再発を繰り返すなど、治りにくいようであれば、治療薬の他に薬を使用しながら膣洗浄を行って原虫を洗い流すこともあります。
次の項目で薬ごとに服用方法と治療期間を紹介します。
経口薬
経口薬はトリコモナス治療には必須薬となり、性器だけでなく、前立腺や卵管などに感染が進行した場合にも効果的です。
服用方法と治療期間
フラジール 内服薬 |
1回250mgを1日2回、10日間の服用 |
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10日間で症状の改善がみられない場合は、1週間は空けてから追加治療を行う場合もあります。
なお、内服薬は妊娠3ヵ月以内の方や妊娠の可能性がある場合は使用できません。
※有益性が危険性を上回る場合のみ、経口薬を使用することもあります。妊娠中に症状があれば必ず医師ご相談ください。
膣錠
膣剤は、難治例や再発例には経口薬とセットで処方されることもあります。
服用方法と治療期間
フラジール 膣錠 |
1回250mgを1日1回、10〜14日間膣内に挿入する |
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再発・再燃させないためにも医師に決められた期間は投与を続けるようにしてください。
使用前には手や指を清潔にしてから使用するようにし、薬剤が水分に反応するため濡れた手で触れないようにしましょう。
治療後の再検査はいつから?
トリコモナスの治療後、再検査の目安は男女で異なります。
男性
⇨ 服用後2週間以上が経過したタイミング
女性
⇨ 服用後2週間以上が経過した次回生理後
女性は原虫が残っていた場合、経血中で増殖するリスクがあるため、男性と再検査のタイミングが異なります。
体内にわずかでも原虫が残っていれば症状をぶり返すことや、再感染リスクもあるので、治療後は必ず再検査を受けてください。
トリコモナスの治療は、治療終了後の再検査で陰性が出るまでと考えましょう。
トリコモナス治療中の注意点
トリコモナスの治療中にはいくつか注意点があります。
- 追加治療が必要な場合は服用間隔をあける
- フラジール服用中および服用後3日間は飲酒しない
- 再検査で陰性がでるまで性行為は避ける
- 処方された期間は服用を続ける
トリコモナスの追加治療が必要な場合には、服用間隔を1週間空ける必要があります。
治療の1クールは10日程度にとどめ、それを超えての服用は副作用が現れやすくなるので注意しましょう。
フラジールの服用期間中に飲酒すると、血中のアセトアルデヒド濃度が上昇し、腹痛や嘔吐、潮紅があらわれることがあります。
安全に治療を行うためにも、治療開始から2週間ほどはアルコール類を控えましょう。
また、相手に感染させてしまわないように、再検査で完治が分かるまで性行為は避けてください。
トリコモナスの市販薬はない
トリコモナスの治療薬は、薬局やドラッグストアなどでは購入はできません。
治療薬は「処方箋医薬品」に指定されており、診察や検査に基づいて医師が必要と判断した場合のみ処方されます。
トリコモナスへの感染が疑われる場合には必ず医療機関を受診し、適切な治療薬の処方を受けるようにしてください。
なお、一部の医療用医薬品を処方箋なしで購入できる零売薬局では、フラジール膣錠の取り扱いがあります。
ただし、「やむを得ない場合」に限ってのみ購入でき、トリコモナスの感染を調べるには医療機関への受診が必要です。
感染したかもしれないというだけでは購入できないのでご注意ください。
トリコモナスは自然に治ることはない
トリコモナスが自然治癒することはありません。
治療薬を使わなければ感染部位に生息している原虫を駆除できず、時間が経ってしまうと悪化するおそれもあります。
また、一度完治したからといって、トリコモナスに対する免疫がつくこともありません。
もしパートナーが感染している場合、性的な接触があれば何度も感染してしまうため、完治するまでは性行為を控えましょう。
トリコモナスを放置したら【男女・妊娠中のリスク】
トリコモナスを治療せずに放置すると、以下の病気やリスクに繋がる可能性があります。
男性 |
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女性 |
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妊娠中 |
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男性の場合、前立腺炎は慢性化してしまうほか、精嚢の炎症は精子の活動力を低下させ、精子の通り道が塞がることで不妊に繋がる場合もあります。
女性は38℃以上の発熱が続いたり、不妊の原因になってしまうこともあるので早めの対処が必要です。
妊娠中は胎児の命に関わることもあるため、適切な処置を受けてください。
トリコモナスの予防方法

トリコモナスの感染を100%防ぐ方法はありませんが、セーフセックスを心がけることで感染リスクは減らせます。
- コンドームを使う
- 不特定多数との性行為は避ける
- 肌に触れる部分は清潔に保つ
- 定期的に検査する
一般的に避妊具としてのイメージが強いコンドームですが、正しい使い方ができればトリコモナスの予防に大きく役立てられます。
また、トリコモナスは性行為の経験がなくても、感染者が使用した日用品などを通して感染する場合があります。感染リスクを減らすために以下を心がけてください。
家庭内 | タオルや下着は自分専用のものを使う |
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公衆浴場 | なるべくイスに性器が接触しないようにする |
公衆トイレ | 便座を消毒シートで拭いてから座る |
トリコモナスの検査は3ヶ月に1回くらいのペースが望ましく、不安な行為があればその都度検査を受けるようにしましょう。
おりものや性器に異変を感じたらすぐに検査を
トリコモナスは自覚できないことも多く、感染しているとは知らずパートナーにうつしてしまうこともあります。
おりものや性器に少しでも違和感があればすぐに検査を受けましょう。
トリコモナスは自然治癒しないため、放置していると炎症が広がり男女ともに不妊に繋がる可能性があります。
疑わしい症状は放置せず、早期発見、早期治療を心がけてください。
トリコモナスのよくある質問
-
- Qトリコモナスに感染して無症状の場合、人に感染する可能性はありますか?
- A人に感染させてしまう可能性があり、自然治癒しないため必ず治療を受けましょう。
無症状であっても感染部位にはトリコモナス原虫がいるため、性的な接触によって相手に感染させてしまいます。
下着やタオル、便器、浴槽などからも感染が確認されているので、日常生活でも注意してください。
- Q
-
- Qトリコモナスを検査しようと思います。ほかの性感染症も検査した方が良いですか?
- Aいくつかの検査を受けることが望ましいです。
性器に炎症を起こす性感染症はいくつかあり、菌の種類によっては喉(のど)に感染しているケースもあります。
国内感染者数の多いクラミジアや淋病に加え、急増している梅毒も念のため検査しておくのが望ましいです。
- Q
-
- Q泡状のおりものですが、悪臭はしません。トリコモナスではないですよね。
- Aトリコモナスかどうかは、おりものの異常の有無だけでは判断できません。
感染の可能性がある場合は、検査を受けるようにしてください。
- Q
-
- Qトリコモナスは喉に感染しますか?
- A膣トリコモナスが喉に感染することはまれです。
オーラルセックスによる感染の可能性はありますが、ほとんどの場合性器同士の接触によって感染します。
- Q
-
- Q膣トリコモナスは産道感染しますか?
- A膣トリコモナスの産道感染はまれだと言われています。
ただし、早産や流産の原因になりうるため、医師と相談し、適切に対処してください。
- Q
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- Q妊娠中にトリコモナスになった場合はどうすればいいですか?
- A妊娠中(3ヶ月以内)や妊娠の可能性がある場合、有効成分が胎盤を通じて胎児に影響する恐れがあるため、基本的に膣や外陰部にのみピンポイントで作用する「膣錠」を用います。治療方法が通常とは異なることから、必ず担当医に相談し適切な治療を受けてください。
- Q
-
- Qトリコモナスは自然に治らないですか?
- Aトリコモナスが自然治癒することはありません。
治癒を期待して放置してしまうと、男性は前立腺や精嚢、女性は子宮内(卵管など)にまで原虫が侵入してしまい症状が悪化する恐れがあります。
男女ともに不妊の原因になることや、妊娠中であれば早産・流産のリスクもあるので、必ず医師に相談して早期治療を心がけてください。
- Q
-
- Qトリコモナスになりましたが、心当たりがないです。
- Aトリコモナスには感染から症状が現れるまで平均10日程度の潜伏期間があり、直近では心当たりがない場合も考えられます。
また、トリコモナスは性行為以外にも、不衛生な環境であれば、お風呂・トイレ・タオルの共有により感染するケースもあります。
- Q
その他よくある質問はこちらをご確認ください
生理中はトリコモナスが繁殖しやすい環境のため、性行為を控えるようにしましょう。