
日本国内では、梅毒患者数が増加の一途を辿っています。
1999年から実施されている「感染症法に基づく調査」では、2024年の全国梅毒患者報告数は2023年と同水準の14,663人に達しました。
梅毒は性的接触がある限り誰にでも感染リスクがあります。そのため、日常的に安全な性行動への意識を持つことが重要です。
本記事では、日常生活にすぐに取り入れられる梅毒の予防法と梅毒予防薬について詳しく解説します。
また、早期発見・治療に役立つ検査方法についても詳しく解説しています。
ご自身や大切なパートナーを感染から守るためにも、ぜひ参考にしてください。
※フィットクリニックでは梅毒の治療は行っておりません。予防薬の取扱いのみとなります。
梅毒の予防方法
梅毒の予防方法は至ってシンプルで、パートナー同士のちょっとした意識変化で実践できることばかりです。
以下の基本的な予防を行うだけでも、感染リスクは大幅に低減できます。
梅毒は「偽装の達人」という異名を持つほど他の疾患との区別が難しい病気のため、少しでも異常を感じた場合は自己判断せず、医師にご相談ください。
次の章で、それぞれの予防方法について詳しく解説します。
①コンドームを使用する
避妊具のイメージが強いコンドームですが、性感染症の予防にも効果的です。
薄いゴムが物理的なバリアとなり、感染者の粘膜や傷口と接触するのを防ぐ役割を果たします。
梅毒はあらゆる性行為で感染するため、シチュエーションに応じて必ず新しいコンドームを使用することで、感染者の粘膜・皮膚の接触を防ぎましょう。
- 性器→性器(ノーマルセックス)
- 性器→肛門(アナルセックス)
- 性器→口(オーラルセックス)
ただし、コンドームの使用は、100%の感染予防を保証するものではありません。
ピンホール(目視できない微細な穴)や行為中に外れるなどのアクシデントや、コンドームでカバーできない部分からも感染する可能性があります。
それでも性行為時はコンドームの使用を習慣づけることで、梅毒の感染リスクを大幅に減らすことが期待できます。
②不特定多数との性的接触を避ける
梅毒の感染リスクを減らすためには、不特定多数との性的接触を避けるのが効果的です。
たとえば、1人のパートナーと関係を持つ場合に比べて、3人と性的接触を持てば、感染リスクは単純計算で3倍になります。
性的パートナーの数が増えるほど感染の可能性は高まるため、パートナーを限定することが予防において非常に重要です。
また、特定のパートナーが変わったタイミングにも注意が必要です。
どちらかが無自覚のうちに梅毒を持ち込む可能性があるので、感染リスクがゼロではありません。
新しいパートナーと関係を持つ際には、事前に検査を受けることや、信頼できるコミュニケーションを取ることで感染リスクを減らせます。
③皮膚や粘膜の異常を見逃さない
梅毒は症状だけで他の病気と区別するのが難しく、見逃されがちな感染症です。
発症初期は痛みやかゆみを伴わない場合が多く、体に起こっている異常になかなか気付けません。
しかし、皮膚や粘膜といった部位には梅毒感染の重要なサインがあらわれます。
- 初期硬結(しょきこうけつ)
性器や肛門、口などにできる小豆や指先ほどのサイズの硬いしこり - 硬性下疳(こうせいげかん)
初期硬結が破裂してできる潰瘍 - 無痛性横痃(むつうせいおうげん)
リンパ節(鼠径部)が腫れる
しこり自体は数週間で自然に消えてしまうこともありますが、完治したわけではなく、水面下で感染は進行しています。
また、初期硬結とニキビが似ているとされますが、初期硬結は、5mm~3cm程度のしこりで無痛である一方、ニキビは2~3mm程度の丸い隆起で、かゆみや痛みを伴います。
梅毒が進行すると全身に症状が現れたり、重い合併症に発展したりする場合もあり注意が必要です。
小さな異常を見逃さず、気づいた時点で医師に相談することで感染拡大を予防できます。
④定期的に検査をする
国内の梅毒感染者数が急増している現状を踏まえ、感染をより確実に判断するためには定期的な検査が推奨されます。
たとえ目に見える異常がない場合でも、「無症候性梅毒」と呼ばれる、ほとんど症状が現れないタイプの梅毒も存在します。
このタイプの感染者は全体の20〜40%を占めており、知らないうちに感染を広げる原因にもなりかねません。
血液検査(抗体検査)
・RPR(非トレポネーマ抗体検査)::梅毒の感染により作られる抗体(脂質抗体)を検出する検査
・TP(梅毒トレポネーマ抗体)検査::梅毒の原因菌(梅毒トレポネーマ)に対して、特異的な抗体を検出する検査
※一度でも梅毒に感染すると、体内に梅毒の抗体が残り続けるため、完治後もTP抗体法では陽性が出ます。
イムノクロマト法
自己診断型の検査キット
PCR検査
病変部位のサンプルから梅毒の遺伝子を検出する
病理組織検査
病変部から直接観察して梅毒トレポーマのらせん形状を確認する
など
パートナーと一緒に3ヶ月に1回を目安に性病検査を受けることが理想的です。
これにより、重複感染のリスクも確認でき、梅毒だけでなく他の性感染症からも自分とパートナーを守ることができます。
梅毒の予防薬
梅毒の予防に用いられる薬は、抗生物質の「ビブラマイシン」です。
ビブラマイシンの服用による予防法は「Doxy PEP(ドキシペップ)」と呼ばれ、感染リスクがあった行為から72時間以内に服用することで、梅毒の感染を約87%予防できます。
ビブラマイシン | |
---|---|
有効成分 | ドキシサイクリン |
効果 | 細菌の増殖抑制 |
副作用 | 吐き気、食欲不振、腹痛、下痢、口内炎、発疹など |
飲み方 | 初日:1日200mgを1回~2回で服用 2日目~:1日100mgを1回服用 |
ビブラマイシンは急増する梅毒にくわえ、国内で最も感染者数の多いクラミジアや淋病にも一定の予防効果が期待できます。
- 梅毒:約87%
- クラミジア:約88%
- 淋病:約55%
特に、梅毒感染のリスクが高いMSM(男性同性愛者)やトランスジェンダーに対しての高い効果が研究で示されており、これらのコミュニティーでも予防手段として大きな期待が寄せられています。
フィットクリニックの梅毒予防薬
フィットクリニックでも、梅毒予防薬として抗生物質ビブラマイシンを取り扱っています。
![]() |
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10錠 | 5,500円 |
梅毒の感染が疑われる72時間以内に200mgを服用することで予防効果が期待できます。
さらに、ビブラマイシンによる予防は服用が早ければ早いほど効果的です。
リスクのある行為から24時間以内の服用であればより高い効果を期待できます。
購入をご希望する場合は以下で処方について詳しく解説しています。
梅毒の治療薬
梅毒の治療薬には、ペニシリン系の抗菌薬が用いられます。
内服薬や注射薬(筋肉注射 / 点滴静脈注射)を病期(ステージ)によって使い分けますが、症状が軽度な第1期〜第2期の段階で発見される場合は、内服薬による治療が一般的です。
また、2021年1月には、梅毒の世界的な標準治療薬である「持続性ペニシリン筋注製剤」の国内での販売が認められました。
こちらは早期梅毒(感染から1年以内)であれば、1回の投与で治療ができます。
同時期は梅毒の国内感染者数が急増したこともあり、梅毒治療の新たな選択肢として期待が寄せられています。
以下では、内服薬や注射薬として用いられる薬剤の種類について、詳しく解説していきます。
梅毒の内服薬
内服薬の第一選択として治療に用いられるのが、合成ペニシリン製剤の「サワシリン(アモキシシリン)」です。
梅毒の内服薬 | |
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薬剤名 | サワシリンカプセル250mg |
効果 | 細菌が自らを守るための細胞壁生成を妨げ、菌の増殖を抑えることで梅毒を治療する |
用法 | 治療例:1日3~4回服用し、7日間服用する ※病期や検査の数値により、用法・治療期間は変わる |
副作用 | 発疹、下痢、悪心、嘔吐、腹痛 など |
価格 | 12,000円 / 21錠 |
サワシリン(アモキシシリン)は長らく梅毒の標準治療とされ、神経梅毒以外の梅毒に効果を発揮します。
ペニシリンにアレルギーがある場合
ペニシリン製剤にアレルギーがある場合、ショック症状を回避するために以下の内服薬が用いられます。
- テトラサイクリン系抗生物質
⇒ ミノマイシン(ミノサイクリン) / ビブラマイシン(ドキシサイクリン) - マクロライド系抗生物質※妊娠中のみ
⇒ アセチルスピラマイシン(アセチルスピラマイシン酢酸エステル)
処方していないクリニックもあるため、梅毒治療を行う他の医療機関(泌尿器科、性感染症内科、皮膚科)にご相談ください。
また、妊娠中に梅毒の感染が確認された場合、アセチルスピラマイシンの内服による治療が可能ですが、子宮収縮が誘発されて流産や早産となる可能性があります。
服用前に産科医の診察を受けることが望ましいです。
梅毒の注射薬・点滴薬
注射薬・点滴薬は内服薬と効果こそ変わりませんが、重症例や感染状態から直ちに効果を発揮させることが必要なケースに用いられます。
梅毒の注射薬・点滴薬 | |
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効果 | 細菌が自らを守るための細胞生成を妨げ、死滅させる |
用法 | 点滴薬:1日1,200~ 2,400万単位を投与 注射薬:1回240万単位を筋肉内に注射 (後期梅毒は週に1回、計3回の注射) |
副作用 | 発疹、血液数値異常、肝機能数値異常、血管炎、静脈炎 など |
治療期間 (回数) |
点滴薬:10日〜2週間(第3期以降・先天梅毒・神経梅毒) 注射薬:1回(早期梅毒) / 3回(後期梅毒) |
また、病期が第3期まで症状が進行し、心臓や他の臓器、筋肉や骨、神経などへのダメージによる症状が発現した場合には、症状を改善するための対症療法が行われます。
ベンジルペニシリンベンザチン筋注製剤(筋肉内注射薬)
アメリカCDC(アメリカ疾病予防管理センター)のガイドラインでは、ベンジルペニシリンベンザチン筋注製剤(筋肉内注射薬)が推奨されているものの、日本ではショック死が発生したため梅毒治療として行われていません。
しかし、2021年1月には、新たな選択肢として「ステルイズ(持続性ペニシリン製剤)」の承認・販売がスタートしています。
販売が始まったばかりではあるものの、世界各国で70年以上の使用実績があることから、すでに日本でも梅毒の第一選択薬に位置付けられています。
- 世界標準の梅毒治療薬
- 感染から1年以内の早期梅毒であれば、1回の注射で治療が可能
- 飲み忘れの心配がないので治療が安定する
長い間、日本での梅毒治療は内服薬が標準薬とされてきており、特に販売から間もないステルイズの治療経験を持つ医師は少ない状況です。
治療先を選ぶ際には、治療経験豊富な医師に相談してください。
ベンジルペニシリンカリウム
点滴薬であるベンジルペニシリンカリウムは、次のような場合に用いられます。
- 第3期に以降した梅毒
ゴム腫や手足の麻痺、心血管系の病気を起こす重症例 - 神経梅毒
中枢神経に梅毒トレポネーマが侵入することで起こる梅毒 - 先天梅毒
胎内感染によって引き起こされる梅毒
いずれも日常生活に支障をきたす状態になるため、内服薬や注射剤ではなく、血管に直接薬剤を注入し、すぐに効き目が期待できる点滴薬が投与されます。
これらの梅毒が疑われる場合には、入院が可能な医療機関で検査・治療を受けてください。
治療薬の耐性について
治療薬の耐性とは、抗生物質を使い続けると細菌が薬に対する抵抗力を持ち、薬が効かなくなることです。
耐性を持つ菌は「薬剤耐性菌」と呼ばれ、耐性を持っていない菌にも伝達されるため、耐性菌が次々に増えていく場合があります。
- 飲み忘れ
- 治癒する前の使用中止
- 用法用量の変更
- 抗生物質を使い続ける
など
内服薬は飲みきりが基本ですので、指示された用法用量を守って正しく使用するよう心がけてください。
幸い、梅毒の原因である梅毒トレポネーマの耐性菌の報告はなく、病期や感染状態に合わせた適切なペニシリン製剤を用いれば完治が可能です。
ただし、ペニシリンに耐性を持った菌が今後見つかる可能性はゼロではありません。
特にご自身で服用を行う内服薬は、自己判断が後に耐性菌を発生させる原因になることがあります。
梅毒治療薬の入手方法
梅毒の薬の最も安全な入手方法は、医療機関を受診して処方を受けることです。
なお、風邪などで処方された抗生物質が余っていたとしても、梅毒の治療薬として代用することはできません。
梅毒は病期によって症状が異なり、症状に応じた適切な治療法が求められるため、高度な専門知識が必要です。
選択を誤ると完治が難しくなり、症状が悪化する可能性もあります。
疑わしい症状や不安な行為がある場合は、必ず医師に相談してください。
梅毒の基本情報
梅毒とは、梅毒トレポネーマによる細菌性の性感染症です。
ペニシリンの発見により、一時は国内の感染者数が抑え込まれていました。
しかし、2010年以降、ふたたび感染者数が増加をはじめたことで社会的な関心が高まっています。
梅毒の基本情報 | |
---|---|
主な症状 | しこり、びらん、潰瘍、リンパ節の腫れなど |
感染経路 | キスなども含む性行為や傷口からの感染 |
潜伏期間 | 約1〜13週間 |
治療の期間 | 通常2〜4週間(病期による) |
治療方法 | 抗生物質による治療 |
梅毒は治療しないと病期(第1〜4期)が進行し、最終的には脳や脊髄まで侵されるため命の危険もある病気です。
幸い、現代では抗生物質により治療が可能なため、第3期まで進行することは稀なケースとなっています。
梅毒の完治までの期間
梅毒は適切に治療すれば完治が可能です。
- 第1期:2~4週間
- 第2期:4~8週間
- 第3期以降:8~12週間程度
梅毒は治療終了後の半年程度は経過観察し、定期的な検査で完治の確認をする必要があります。
また、梅毒は完治後も再感染する可能性があります。
さまざまな合併症のリスクなどもあるので、異常を感じた際にはできるだけ早めに医療機関に受診し、適切な対処を受けるようにしてください。
まとめ:梅毒は日常的な対策と定期的な検査で予防できる
梅毒は正しく予防することで、感染リスクを大幅に低減させられます。
以下は、梅毒予防に関する本記事の要点です。
- 梅毒の患者数は増加傾向にある
- 性的接触はコンドームを使用する
- 行為に及ぶパートナーは限定する
- 性的な接触は特定のパートナーのみ
- 無症候性梅毒があるため定期的な検査が推奨される
- リスク行為から72時間以内なら予防薬も使用可能
また、現在梅毒の治療に関してはステルイズ(持続性ペニシリン製剤)が梅毒治療の第一選択薬となっています。
適切な診断と治療で梅毒は完治します。
梅毒の症状に関しては以下をご覧ください。
梅毒の予防に関するよくある質問
-
- Q梅毒を防ぐ方法はありますか?
- A梅毒を防ぐためには、性的接触時にコンドームを正しく使用することが重要です。
また、不特定多数との性的接触を避け、特定のパートナーとのみ性的な関係を持つことで、感染リスクを大幅に減らすことができます。
感染者数の急増からも、理想をいえば、3ヶ月に1回を目安に性感染症検査を受けることが推奨されます。
- Q
-
- Q梅毒の予防薬はありますか?
- A梅毒の予防薬として、リスクのある行為後72時間以内に抗生物質ビブラマイシン(ドキシサイクリン)を服用することで予防効果が期待できます。
この方法は、特に高リスク行為があった場合に使用され、約87%の予防効果があるとされています。
- Q
-
- Q梅毒の予防接種はありますか?
- A梅毒に対する予防接種は現在存在しません。
そのため、感染リスクを減らすためには日常的な予防対策と定期的な検査が非常に重要です。
- Q
その他よくある質問はこちらをご確認ください
参考サイト
梅毒の流行状況(東京都 2025年)|東京都感染症情報センター
Postexposure Doxycycline to Prevent Bacterial Sexually Transmitted Infections
性感染症 診断・治療 ガイドライン 2016 p.48-p.49
ビブラマイシン錠50mg/ビブラマイシン錠100mg
持続性ペニシリン製剤
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この記事の監修

(はっとり けいた)医師
【略歴】
- 平成17年
- 医療法人財団 河北総合病院 勤務
- 平成29年
- ゴリラクリニック 池袋院 管理者
- 令和5年~
- フィットクリニック院長 勤務