イナビルは、インフルエンザの治療だけでなく予防にも使用される吸入型の医薬品です。
1回の吸入で有効成分が体内に長くとどまり、A型・B型インフルエンザの発症を抑える働きがあります。
本記事では、イナビルの予防効果や副作用、正しい投与方法について詳しく解説します。
また、吸入時の注意点や予防での入手方法なども紹介していますので、ぜひ最後までご覧ください。
当院ではオンライン診療によるインフルエンザ予防薬としてイナビルの処方を行っております。
オンライン診療の詳細は以下のページにて詳しく解説しています。
イナビルのオンライン診療はこちら
イナビルとは
イナビルは第一三共株式会社が開発した日本発のインフルエンザ治療・予防薬です。
タミフルやリレンザなどと同じ、ノイラミニダーゼ阻害薬と呼ばれる薬に分類されます。
粉末状の吸入型の医薬品であり、ウイルスが増殖する「気管支」や「のど」に直接作用するため、全身への影響が少ないとされています。
1回の吸入で治療および予防が完結する点が特徴で、同じタイプのリレンザが1日2回を複数回行うよりも利便性に優れています。
当院では、予防目的の自由診療として処方を行っています。
| イナビルの概要 | |
|---|---|
| 製品画像 |
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| 一般名 (成分名) |
ラニナミビルオクタン酸エステル水和物 |
| 剤形 | 白色の粉末、または塊状の凍結乾燥製剤 |
| 予防効果 | A型・B型インフルエンザの発症を抑制する |
| 予防での用量 |
成人・10歳以上の小児: 40mgを1回吸入投与する。 または20mgを1日1回、2日間連続で投与する。 10歳未満の小児: 20mgを1回吸入投与する |
| 投与方法 | 軽く息を吐いてから吸入器をくわえ、体を起こして吸入する |
| 効果期間 |
1回の吸入で7~10日間持続 ※予防効果のピークは3日目で、最長10日間 |
| 主な副作用 | 下痢、頭痛、めまい、食欲不振、嘔吐 など |
| 重篤な副作用 | 気管支攣縮、異常行動、アナフィラキシー、皮膚粘膜眼症候群 など |
| その他の副作用 | 発疹、そう痒、紅斑、咳嗽、過敏症など |
| 使用禁止 | 有効成分に対して過敏症の既往歴がある方 |
| 使用注意 | ・乳製品に対して過敏症の既往歴がある方 ・慢性心疾患や慢性腎機能障害、糖尿病を含む慢性代謝性疾患など基礎疾患を有する方 ・免疫低下状態の方 ・妊娠中または妊娠の可能性がある方 ・授乳中の方 ・高齢者 ・小児 |
| 保管方法 | 直射日光、高温多湿を避けて室温で保管 |
インフルエンザの確定診断は検査キットや医療機関で行います。
インフルエンザについての詳細は以下のページをご覧ください。
インフルエンザとは
イナビルの予防効果
イナビルは感染後の治療に使われますが、感染前に使用することでインフルエンザウイルスの増殖を抑え、感染予防の効果が期待できます。
インフルエンザウイルスはヒトの粘膜細胞に感染すると、細胞内で新たなウイルスを作ります。 ウイルスは細胞から出て、また別の細胞へと感染を繰り返し増殖します。
イナビルが含まれるノイラミニダーゼ阻害剤は、新たなウイルスが細胞から出る(遊離)のを阻害することで増殖を抑える働きがあります。
イナビルは、1回の吸入で有効成分が気道内に長くとどまるのが特徴です。
そのため、おおよそ7日から10日程度、予防効果が持続します。
吸入後は数日間を中心に薬の作用が最も強く、4日目以降から徐々に穏やかに持続するとされています。
そのため、より感染を防ぐためにはワクチン接種、手洗いやマスクの併用が推奨されます。
イナビルの副作用
イナビルは喉や気管支など局所的に作用するため、比較的安全性が高いとされています。
ただし、医薬品のため副作用の報告もされております。
副作用には、体のだるさや頭痛といった軽度な症状から、重篤な症状までさまざまな種類があります。
ここでは、イナビルで報告されている主な副作用、重篤な副作用、その他の副作用について順に解説します。
主な副作用
比較的よくみられる副作用として、以下の症状が報告されています。
- 下痢
- ALT(肝臓内の酵素値)上昇
これらの副作用は、体質や体調によって現れ方に差があります。
一時的なものが多く、時間の経過とともに改善されることがほとんどです。
ただし、症状が続く場合や悪化する場合には、必ず医師にご相談ください。
重篤な副作用
イナビルでは、まれに重篤な副作用が現れることがあります。
- ショック、アナフィラキシー(失神、呼吸困難、血圧低下、顔面蒼白、冷汗等)
- 気管支攣縮
- 異常行動
- 皮膚粘膜眼症候群(スティーブンス・ジョンソン症候群)
- 中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)
- 多形紅斑
これらの症状は頻度は低いものの、命に関わる危険性があります。
特に、呼吸が苦しい、皮膚や粘膜にただれが見られる、強い発疹や意識の低下がある場合は、直ちに医療機関を受診してください。
その他の副作用
発生頻度は低く非常にまれではありますが、以下の副作用も報告されています。
症状は一時的なものが多いですが、改善が見られないときや悪化する場合には、早めに医療機関を受診することが大切です。
頻度0.5%未満
- 蕁麻疹
- 胃腸炎、悪心、嘔吐、腹痛、口内炎、腹部膨満、食欲減退、腹部不快感
- めまい、頭痛
- 肝機能異常、AST上昇、γ-GTP上昇
- 尿蛋白
- CRP上昇、尿中ブドウ糖陽性
頻度不明
- 発疹、紅斑、そう痒
- 咳嗽(むせ)
これらの副作用は、肝機能や免疫反応、呼吸器系などに一時的な影響を及ぼすことがあります。
多くは軽度で自然におさまりますが、発疹やかゆみが広がる場合、尿に異常が見られる場合、また倦怠感が強い場合などは医師の診察を受けてください。
イナビルによる異常行動とは
イナビルによる異常行動の発現は非常にまれですが、小児で一部報告があります。
臨床試験において、成人では異常行動などの精神障害の副作用は認められませんでした。
一方、小児を対象とした試験では276例中4例(1.4%)に異常行動が確認され、製造販売後の使用成績調査では3,537例中17例(0.48%)で報告されています。
ただし、これらの異常行動はインフルエンザ自体による影響の可能性も指摘されており、イナビルとの因果関係は明確ではありません。
特に、小児や未成年の患者では、吸入後は一人にしないよう注意が必要です。
家庭での療養時には、転落などの事故を防ぐため、保護者が目を離さずに見守ることが推奨されています。
イナビルの予防投与
イナビルの予防投与は、感染者と接触した場合など、発症のリスクがあるときに行います。
「予防」での投与量と投与方法
| 10歳以上 | 10歳未満 |
|---|---|
または、1容器(20mg)を1日1回、2日間吸入でも可。 |
|
| ▼ イナビルの予防は完了 |
|
感染者との接触後は、48時間以内に投与を開始することが望ましいです。
また、小児への投与では臨床試験で5歳以上の全例が吸入に成功しており、投与は比較的容易とされています。
このように、年齢を問わず正しい方法を守れば、予防投与は安全かつ効果的に行うことができます。
イナビルの吸入方法
イナビルの吸入方法は以下の手順になります。
| イナビルの吸入方法 | |
|---|---|
①
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容器の底をトントンと軽く打ちつけ、薬を下に集める(スライドなしの状態)。 |
②
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①を矢印方向へ端までしっかりとスライドさせる。 |
③
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体を起こした状態で、吸入口を奥までくわえ息を大きく吸い、2~3秒息を止める。 |
④
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容器を口から外し、ゆっくりと呼吸する。 |
⑤
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②を矢印方向へしっかりとスライドさせ、同様に吸入する。 |
⑥
|
スライドして、容器を元の状態に戻す。 |
| ⑦ | 薬の吸い残しを防ぐため、1~5の動作を再度行い、1容器分の吸入が完了です。 |
イナビルの注意事項
以下イナビルの注意事項です。
| 病気や症状に応じた注意事項 | |
|---|---|
| 使用禁止 | 成分に対して過敏症の既往がある方 |
| 使用注意 | 気管支喘息、糖尿病、細菌感染症、慢性閉塞性肺疾患、 慢性呼吸器疾患、慢性代謝性疾患、乳製品に対する過敏症、 免疫低下状態、慢性心疾患、慢性腎機能障害 |
| 投与時の指示 | 細菌感染症を合併している場合は、抗菌薬などを併用する必要があります。 |
| 患者の属性に応じた注意事項 | |
| 相対的禁止 | 妊婦・産婦 |
| 注意 | 高齢者、授乳婦、低出生体重児、新生児、乳児、幼児・小児 |
| 年齢や性別に応じた注意事項 | |
| 注意 | 低出生体重児・新生児(0日〜27日)、乳児(0日〜364日)、幼児(0歳〜6歳) |
イナビルは有効性が高い一方で、基礎疾患や体質によって注意が必要な場合があります。
使用前には必ず医師や薬剤師に相談し、自身の健康状態をお伝えください。
イナビルの薬剤との相互作用
イナビルは、経鼻弱毒生インフルエンザワクチンとの併用に注意が必要です。
有効成分がウイルスの増殖を抑えるため、ワクチンウイルスの働きが弱まり、十分な免疫効果が得られない恐れがあります。
そのため、ワクチン接種との併用は避けることが推奨されています。
イナビルの入手方法
イナビルは、医療機関を通じて医師の処方により入手できます。
インフルエンザの予防目的でのイナビルの処方は可能ですが、その場合は保険適用外(自由診療)となります。
そのため、対応しているクリニックでのみ処方を受けることができ、薬局やドラッグストアなどでの市販はされていません。
もし治療目的で使用したい場合は、別の医療機関に相談のうえ診断を受けてください。
安全に使用するためにも、自己判断での購入や吸入は避け、医師の指示に従って使用してください。
その他インフルエンザ予防薬の種類について以下のページで解説しています。
インフルエンザ予防薬の種類
イナビルで効果的なインフルエンザの予防を
- イナビルは、1回の吸入でA型・B型インフルエンザの発症を防ぐ効果がある。
- 有効成分が気道に長くとどまり、約7〜10日間の予防効果が持続する。
- 薬剤の吸入は1回で完了するため、毎日の服用が不要で利便性に優れている。
- タミフルなどの内服薬と異なり、気管支やのどなど局所に直接作用する。
- 副作用は比較的少なく、安全性の高い予防薬として小児から成人まで使用可能。
イナビルによる予防は、1回の吸入で完結する手軽さが最大の特徴です。
家庭や職場で感染者が出た場合や、受験・出張を控えている場合など、短期間でしっかりと感染を防ぎたいときに有効です。
医師の指導のもと正しく吸入することで、忙しい時期でも安心してインフルエンザ予防ができるのがイナビルの大きなメリットです。
以下のページにてインフルエンザ予防の詳細を詳しく解説しているので、ぜひご確認ください。 インフルエンザ予防オンライン診療
イナビルに関するよくある質問
-
- Qイナビルはどれくらいで効きますか?
- Aイナビルは、吸入後すぐに有効成分が気道に届き、おおよそ24時間以内にウイルスの増殖を抑え始めます。
症状の改善効果はおよそ2〜3日以内に現れることが多く、臨床試験でも他の抗インフルエンザ薬と同等の発症期間短縮効果が確認されています。
- Q
-
- Qイナビルはなぜ1回で完結するのでしょうか?
- Aイナビルは、体内の酵素の働きで脂溶性から水溶性にすばやく変化します。
この性質により、1回の投与で有効成分が気道や肺の上皮細胞に長くとどまり、ウイルスの増殖を強力かつ効率的に抑えます。
他のインフルエンザ予防薬のように数日間吸入を続ける必要がなく、服薬忘れの心配がない点も特徴です。
- Q
-
- Qイナビルでインフルエンザは予防できますか?
- Aイナビルにはインフルエンザ感染の予防効果があります。
感染者と接触した際に使用することで、A型・B型インフルエンザの発症リスクを下げることが可能です。
ただし、ワクチンの代替にはならず、完全に感染を防ぐものではありません。
感染リスクを減らすためには、手洗いやマスクなどの基本的な予防も併用することが重要です。
- Q
-
- Qインフルエンザにイナビルとタミフルのどちらが効きますか?
- A治療効果においては、イナビルとタミフルの症状改善期間はほぼ同等と報告されています。
日本国内の臨床試験では、症状が改善するまでの時間はイナビルが73時間、タミフルが73.6時間とほとんど差がない結果でした。
イナビルは吸入1回で治療が完了するため、利便性の高さが評価されています。
- Q
参考サイト
この記事の監修
(はっとり けいた)医師
【略歴】
- 平成17年
- 医療法人財団 河北総合病院 勤務
- 平成29年
- ゴリラクリニック 池袋院 管理者
- 令和5年~
- フィットクリニック院長 勤務



効果を得るためには感染者との接触48時間以内の投与が推奨されるため、濃厚接触の場合はできるだけ早く対応しましょう。