
当院では、インフルエンザワクチンの予防接種は行っておりません。
インフルエンザの予防薬とは、感染者と濃厚に接触した際に発症を防ぐ目的で服用する抗インフルエンザ薬のことです。
主にイナビル、リレンザ、タミフル、ゾフルーザなどが使われます。
これらは発症者との濃厚接触後48時間以内に服用を始めることで、ウイルスの増殖を抑え、発症を防ぐ効果が期待できます。
本記事では、インフルエンザ予防薬の効果や副作用、ワクチンとの違いをわかりやすく解説します。
インフルエンザ予防薬とは
インフルエンザ予防薬とは、インフルエンザウイルスへの感染を防ぐ、または発症を抑えるために用いられる医療用の薬です。
ウイルスの増殖を抑えることで、症状の出現や重症化を防ぐ効果があります。
とくに予防薬は、すでに感染した人と接触した際に、発症を防ぐ「二次感染予防」に効果的です。
例えば、家族内で患者が出た場合や、受験・出張・高齢者施設への訪問前など、感染リスクの高い場面で使われることがあります。
インフルエンザは無症状や軽い症状であっても、他人にうつす可能性がある感染症です。
そのため、免疫力が低下している方や基礎疾患を持つ方など、予防薬の服用が必要となるケースがあります。

インフルエンザ予防薬と予防接種(ワクチン)の違い
インフルエンザの予防薬と予防接種(ワクチン)は、どちらも感染予防のために使われますが、予防と言ってもその目的が大きく異なります。
予防接種は、あらかじめ体内にワクチンを入れることで免疫をつくり、発症しにくい状態にしておく「事前の防御対策法」です。
一方で、予防投与はすでにインフルエンザウイルスを持つ人と接触したあとに、ウイルスの増殖を抑える、「対処的な方法」となります。
インフルエンザ予防薬の対象者
インフルエンザ予防薬の処方対象者はインフルエンザに感染した人と同居している家族などのうち該当する方です。
処方対象者
- 65歳以上の高齢者
- 心臓または呼吸器に慢性の疾患がある方
- 糖尿病をはじめとした代謝性疾患の方
- 腎機能の働きが低下している方
上記に該当する方は免疫力が弱く、感染リスクが高いとされています。
インフルエンザ予防薬の子供への予防投与
インフルエンザの予防薬は、子供にも医師の判断で投与することが可能です。
ただし、薬の種類によって使用できる年齢や用量が以下の通り異なります。
の予防投与
-
タミフル(内服)
⇒生後2週間以降から使用可能。体重に応じてドライシロップで投与される。 -
イナビル(吸入)
⇒吸入できる年齢(おおむね5歳以上)から使用可能。吸入が難しい場合は液状タイプもあり。 -
リレンザ(吸入)
⇒吸入できる年齢(おおむね5歳以上)から使用可能。 -
ゾフルーザ
⇒2023年から日本小児科学会により12歳以上で推奨された。
インフルエンザ予防薬の種類と予防効果
インフルエンザの予防薬には、タミフル、イナビル、リレンザ、ゾフルーザなどがあります。
これらは感染した際の治療薬としても使われますが、予防投与と治療投与では用量や回数が異なるため、注意が必要です。
また、点滴薬のラピアクタは治療薬としては使用されていますが、予防効果と安全性は確立されていません。
項目 | タミフル | イナビル | リレンザ | ゾフルーザ |
---|---|---|---|---|
錠型 | 経口薬 | 吸入薬 | 吸入薬 | 経口薬 |
特徴 |
|
|
|
|
投与方法 | 内服 (カプセル・ ドライシロップ) |
吸入薬 | 吸入薬 | 内服 |
予防の投与回数 | 1日1回×7〜10日 | 1回のみ | 1日1回×10日 | 1回のみ |
項目 | タミフル | イナビル | リレンザ | ゾフルーザ |
---|---|---|---|---|
錠型 | 経口薬 | 吸入薬 | 吸入薬 | 経口薬 |
特徴 |
|
|
|
|
投与方法 | 内服 (カプセル・ ドライシロップ) |
吸入薬 | 吸入薬 | 内服 |
予防の 投与回数 |
1日1回×7〜10日 | 1回のみ | 1日1回×10日 | 1回のみ |
※左右にスクロールできます
薬剤によって適応年齢や体重、投与量などが異なりますのでご注意ください。
インフルエンザの確定診断は検査キットや医療機関で行います。
インフルエンザについての詳細は以下のページをご覧ください。
インフルエンザとは
タミフル
タミフルはカプセルやドライシロップがあり、小児から高齢者まで幅広く使用されています。
インフルエンザ治療薬として長年使われており、予防目的でも安全性と有効性が確認されています。
内服タイプの抗インフルエンザ薬で、ウイルスの増殖を抑えるノイラミニダーゼ阻害薬に分類されます。
医薬品名 | タミフル |
---|---|
一般名 | オセルタミビルリン酸塩 |
成分名 | オセルタミビル |
予防効果 | 接触から48時間以内の内服で効果が期待できる。 家庭内や職場で感染者と接触した場合に発症リスクを低下させる効果があり、家庭内での発症抑制率が約80~90%になったデータあり。 |
予防での 用量 |
成人: 1回75mgを1日1回、7~10日間内服 |
投与方法 | 経口投与 |
主な 副作用 |
吐き気、腹痛、頭痛、下痢、発疹など |
重篤な 副作用 |
アナフィラキシー、肝機能障害、皮膚粘膜症候群、異常行動など |
その他の 副作用 |
悪夢、結膜炎、血尿、発熱など |
服用禁止 | 本剤の成分に対し過去にアレルギー症状が現れたことのある方 |
服用注意 | 腎機能が低下している方、妊娠中または妊娠の疑いがある方、授乳中の方、高齢者、小児は医師の指示に従うこと。 |
イナビル
イナビルは吸入タイプの抗インフルエンザ薬で、1回または2回の吸入で効果が持続するのが特徴で、服用の負担が少なく済みます。
家庭内感染の予防や、通勤・通学などで感染者との接触がある人にも使用されます。
ウイルスの増殖を抑えるノイラミニダーゼ阻害薬に分類されます。
医薬品名 | イナビル |
---|---|
一般名 | ラニナミビルオクタン酸エステル水和物 |
成分名 | ラニナミビル |
予防効果 | インフルエンザウイルスA型とB型に対して有効で、1回または1回分を2回に分けての吸入で発症率を約65%減少させたデータあり。 接触後2日以内の吸入で予防効果が持続する。 |
予防での 用量 |
成人: 40mgを1回吸入、または20mgを1日1回×2日間吸入。 |
投与方法 | 吸入投与 |
主な 副作用 |
下痢、頭痛、嘔吐、めまいなど |
重篤な 副作用 |
アナフィラキシー、気管支攣縮、呼吸困難、皮膚粘膜症候群など |
その他の 副作用 |
咳、発疹、かゆみなど |
服用禁止 | 本剤の成分に対し過去にアレルギー症状が現れたことのある方 |
服用注意 | 気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患などの呼吸器疾患の方、腎機能障害の方、妊娠中または妊娠の疑いがある方、授乳中の方、高齢者、小児は医師の指示に従うこと。 |
リレンザ
リレンザは吸入タイプの抗インフルエンザ薬で、発症抑制に加え、家族内や施設内などでの二次感染予防にも用いられます。
吸入操作があるため、小児や高齢者など医師や家族のサポートが必要となる場合があります。
ウイルスの増殖を抑えるノイラミニダーゼ阻害薬です。
医薬品名 | リレンザ |
---|---|
一般名 | ザナミビル水和物 |
成分名 | ザナミビル |
予防効果 | インフルエンザの検査確定の予防において約65~70%の有効性が示されている。 吸入による局所作用で気道内のウイルス増殖を抑制し、家庭内・施設内での感染拡大を防ぐ効果が確認されている。 |
予防での 用量 |
成人・小児: 1回 10mgを1日1回、10日間吸入 |
投与方法 | 専用吸入器を用いた吸入投与 |
主な 副作用 |
発疹、顔のむくみ、頭痛、下痢など |
重篤な 副作用 |
アナフィラキシー、気管支攣縮、皮膚粘膜症候群など |
その他の 副作用 |
血管迷走神経反応 |
服用禁止 | 本剤の成分に対し過去にアレルギー症状が現れたことのある方 |
服用注意 | 気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患などの呼吸器疾患を持つ方、乳製品に対するアレルギーがある方、妊娠中または妊娠の疑いがある方、授乳中の方は医師の指示に従うこと。 |
ゾフルーザ
ゾフルーザは、1回の内服で完結する抗インフルエンザ薬です。
ウイルスの増殖を抑えるキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬で、A型・B型いずれにも作用します。
服用回数が1回のみと少なく、服用の負担が軽減できるのが特徴です。
医薬品名 | ゾフルーザ |
---|---|
一般名 | バロキサビル マルボキシル |
成分名 | バロキサビル、マルボキシル |
予防効果 | インフルエンザ患者と同居する家族を対象とした国内臨床試験では、発症抑制率が約85%なる結果あり。 効果が長く持続するため投与は1回で済む。 |
予防での 用量 |
成人および12歳以上: 体重80kg以上は80mg、80kg未満は40mgを内服。 |
投与方法 | 経口投与(錠剤または顆粒) |
主な 副作用 |
下痢、吐き気、頭痛、発疹など |
重篤な 副作用 |
アナフィラキシー、異常行動、出血など |
その他の 副作用 |
血管性浮腫、かゆみ |
服用禁止 | 本剤の成分に対し過去にアレルギー症状が現れたことのある方 |
服用注意 | 小児では耐性株出現のリスクがあるため慎重に使用すること。妊婦・授乳婦、肝機能障害・高齢者は医師の指示に従うこと。 |
インフルエンザ予防薬の副作用や異常行動について
インフルエンザ予防薬の副作用は薬の種類によって異なりますが、一般的には頭痛・吐き気・下痢などで、多くは症状が軽く自然と治まります。
稀にアナフィラキシーや肝機能障害など、重篤な副作用が起こることもあるため、服用中に体調の変化を感じた場合は速やかに医療機関を受診してください。
また過去に「タミフルなどインフルエンザ薬の服用で異常行動が起きる」といった報道がありましたが、実際には服用の有無にかかわらず、インフルエンザ発症自体が原因で異常行動が見られるとされています。
インフルエンザ予防薬の投与方法
インフルエンザ予防薬の投与方法は以下の通りです。
投与方法
-
タミフル
⇒内服で1日1回7〜10日間服用 -
イナビル
⇒イナビルは1~2回の吸入 -
リレンザ
⇒10mg(5mgブリスター2個分)を1日1回吸入し、10日間行う -
ゾフルーザ
⇒体重20〜40kgの方は20mg(1錠)、10〜20kgの方は10mg(0.5錠)、80kg以上の方は80mg(4錠)を内服
インフルエンザ予防薬の投与方法は、薬の種類や年齢によって異なりますが、いずれも重要なのは服用のタイミングです。
インフルエンザ患者との接触から48時間以内に服用を開始する必要があり、それを過ぎると有効性は十分に確認されていません。
またリレンザにおいては36時間以内の投与が必要です。
受験や重要なイベントを控える場合、あらかじめ予防効果の持続期間を把握しておくことで、複数日程にも対応しやすくなります。
下記の図は、大学入試を想定したインフルエンザ予防薬の服用タイミングの一例です。
(参考:イナビル)

同居するご家族も同様に予防しておくことでインフルエンザのリスクを低下させましょう。
インフルエンザ予防薬の選び方
インフルエンザの予防投与は、医師が年齢・体重・基礎疾患・生活スタイルなどを総合的に判断して選択します。
第一選択となるのは「タミフル」に代表されるノイラミニダーゼ阻害薬で、飲み薬として幅広い年代に使用できるのが特徴です。
内服が難しい方には吸入タイプの「イナビル」「リレンザ」が用いられます。
さらに、これらが使えない場合に検討されるのが「ゾフルーザ」です。
なお、インフルエンザの予防目的での処方は保険適用外であり、すべて自費診療となります。
インフルエンザ予防薬は市販されているか
現在、日本国内ではインフルエンザ予防薬は市販されていません。
タミフルやイナビルなどの抗インフルエンザ薬は、すべて医師の診察を受けたうえで処方される処方薬です。
これらは、用量や服用期間を誤ると副作用や耐性ウイルスのリスクがあるため、一般販売はおこなわれていません。
市販薬や日常的な感染予防対策としては、アルコール消毒液の使用やマスクの着用、手洗い・うがいなどが挙げられます。
基本的なことではありますが続けることで、感染リスクを下げることに繋がります。
インフルエンザ予防薬の処方について
インフルエンザ予防薬は、自費診療(保険外診療)で処方を受けることができます。
症状が出ていない段階で行う「予防投与」は保険適用の対象外となるため、自由診療としての扱いです。
処方を受ける際は、自費診療に対応しているクリニックを受診する必要があります。
最近では、来院せずに処方を受けられるオンライン診療に対応しているところもあり、自宅から医師の診察を受けることも可能です。
また、薬の種類や服用期間、費用は医療機関によって異なるため、事前に確認しておきましょう。
よくある質問
-
- Q
インフルエンザの予防に飲む薬はありますか?
- A
あります。
代表的なものは「タミフル」「イナビル」「リレンザ」「ゾフルーザ」などの抗インフルエンザ薬です。
これらはウイルスの増殖を抑えることで発症や重症化を防ぐ効果があり、家庭内感染の予防にも用いられます。
- Q
-
- Q
インフルエンザの予防投薬はいつ飲みますか?
- A
感染者との接触から48時間以内に服用または吸入を開始することが重要です。
時間を過ぎると薬の有効性が低下するため、早めの受診・投薬が推奨されます。
服用期間や服用方法は薬によって異なるため、医師の指示に従って正しく服用しましょう。
- Q
-
- Q
インフルエンザ予防薬と予防接種は何が違いますか?
- A
予防薬は「感染後の発症抑制」、予防接種(ワクチン)は「事前の免疫形成」が目的です。
ワクチンは体内で抗体をつくり、発症を防ぐのに対し、予防薬はウイルスの増殖を直接抑える働きをします。
予防効果の持続力についても異なり、ワクチンは長期的に作用しますが、予防薬は一時的です。
- Q
-
- Q
インフルエンザの予防薬はいくらかかりますか?
- A
予防目的での処方は保険適用外(自費診療)のため、医療機関ごとに料金が異なります。
一般的には、薬剤費と診察料を合わせて4,000円~6,000円前後が目安です。
オンライン診療を利用すれば、自宅から手軽に処方を受けることもできます。
- Q
参考サイト
この記事の監修

(はっとり けいた)医師
【略歴】
- 平成17年
- 医療法人財団 河北総合病院 勤務
- 平成29年
- ゴリラクリニック 池袋院 管理者
- 令和5年~
- フィットクリニック院長 勤務
予防薬の効果は、体内に侵入したウイルスの活動を直接抑えることで、ワクチンのように免疫をつくるものではありません。
しかし、家庭や職場などでの感染拡大を防ぎ、重症化を抑えることに繋がります。